ニュージーランド

酪農 男性

<ニュージーランドでの研修を終えて>

 僕は2004年の8月20日に日本からニュージーランド(以下NZと略)に農業研修に行きました。始めの一ヶ月はオークランドで生活をし、オークランドインターナショナルランゲージスクールに語学勉強に通い、英語を早く話せるようになりたかったので、午前と午後の両方の授業を受けました。
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クラスメイトと教室にて
★ 農業研修のスタート マイクさんのファームでの研修
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マイクさんのファミリー

 始めにお世話になったマイクさんのファームは、牛の数が265頭いる、50/50シェアミルカーで、220エーカーの平坦な土地を持つ農家でした。

 NZには自分の土地で酪農をしているオーナーと、土地を持たないが、自分の牛やトラクターなどは持っていて、オーナーから土地を借り、借りる代わりに収入の半分をオーナーに収める、というシステムがあります。このような人達をシェアミルカーといいます。オーナーもただ土地を貸すだけではなく、フードライザーといってパドックに肥料を入れるなど、土地の管理費などをオーナーも負担することになっています。

 僕がマイクさんのファームに行ったのは9月20日で、そのころのNZは春に当たりますが、たくさんの雨が降りまだ肌寒い日も多かったです。仕事の内容としては、朝4時半に起床、4時45分からミルキングのカップを付け始めるという作業でした。

 朝のミルキングは昼に比べて乳量が多いので時間的には3時間程度でした。ミルキングの終了時間は大体8時半でそれからカップを洗ったり、プラントの洗浄などで、僕は牛が入るヤードの掃除をしました。

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マイクさんのミルキングパーラー

 ミルキングパーラーには、20個のカップが付いていて、両端に20頭ずつで方列ずつ搾りました。もうミルクが来てなくて乳房の張りもなくなったら搾り終わりと判断し、反対側の列に付け替えます。

 ミルキング後朝御飯を食べて少し休憩を取り、10時頃にまた外に出ました。春は草も成長が良く、雑草も伸びる時期でもあった為、”セッソル”という日本で言う”アザミ”を駆除する仕事や、地中に埋まっている配水のパイプの修理などもありました。NZは外飼いの為各パドックには必ず一つ、水のみの”トロフ”という水槽があります。

 乳牛にとって水は凄く大切で、毎日水漏れがないか、水は来ているかなどを調べました。パドックの面積はそれぞれ異なるので、牛が草を食べ過ぎないように、いつも気を使っていました。一回では大きすぎるパドックでは、半分に分けるなど調節するためフェンスアップをしました。スタンドとリールの電牧線を使って、パドックを半分に分けるフェンスを作りました。9月には、草だけでは栄養を取れないので、”メイズ”というデントコーンを朝晩二回与えていました。

サイレージには二通りあって、草のサイレージとデントコーンのサイレージがあります。デントコーンは一年に一回、大体何処のファームでも作っています。マイクさんの所はパドックを4つ、約20haぐらい作っていました。12月頃から植え始め、ファームによって違いますが収穫は3月~4月の半ば位まででした。デントコーンは炭水化物が多いため牛の体づくりの為に食べさせます。よって、子牛が産まれる前にたくさんの栄養を与え、子牛の成長を促進させます。逆にグラスサイレージは、ミルクの質を高める為に牛に与えます。

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ブラットリーと僕
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カーフクラブで沢山の賞を取った ステフと
子牛のスウィーティーパイ

 マイクさんの子供達ステファニーとブラットリーも牛が大好きでよくファームのお手伝いをしていました。ブラットリーは「将来は農家になるんだ!」と言っていて、農業に誇りを持っているみたいで、それを聞いて感心した気持ちになりました。

 ステファニーとブラットリーは二頭の子牛を飼育していて、毎日ブラッシングや餌や水などを与えていました。学校のクラブにカーフクラブというのがあり、言ってみれば、子供たちが手をかけた子牛を品評するような感じで、子供たちは優勝を狙って大切に子牛に接していました。

 カーフクラブのような子供が子牛を大切に育てて、そして大会を行うという行事は、子供の時から動物に身近に接する機会としてはすごくいい行事だと思いました。

★ 第2のファームステイ ロブさんのファーム研修
 2005年1月4日マイクさんの家から約20分のファームに移動しました。ロバットさんとワーカーと僕の三人で毎日仕事をしました。朝5時に起き、パドックから牛をカウシードに連れていき、5時45分からミルキングスタートでした。ミルキングは大体8時半に終わり片付けをして9時には朝食を取りました。

 その後、家の修理を手伝ったり、アザミを駆除したりしました。ロバットさんの牛は360頭ぐらいいて朝晩の二回の搾乳でした。午後は3時半ぐらいから牛を追い始めて4時にはミルキング開始でした。ここでは一ヶ月の研修のみでした。

 ある日、パーマストンノースというところでロータリーパーラーでの見学とミルキングも体験させてもらいました。そこは60頭入るパーラーで、800頭を2時間半であっという間に終わらせていました。

 ロータリーパーラーは、少ない人数でたくさんの牛を効率よく搾ることが出来ると感じました。ティッツスプレーが自動で吹きかけられることに興味を持ちましたが、やはり流れ作業なのでしっかりとしたケアなどが出来ない点もあり、乳房炎に掛かる牛も多いと聞きました。

★ 第3のファームステイ ロッドさんのファーム研修
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ジャージー牛と農場

 2月の4日に、モーリンズビルから近い町にあるジャージー種が410頭のファームに移動しました。ロッドさんはファームのオーナーではなくマネージャーでした。マネージメントシステムというのは、自分一人で農業をするのが困難になった場合、普通のワーカーを雇うのではなくマネージャーの資格を持ち、ファーム全体のバランスやミルクコンディションを全部オーナーに代わって仕事をすることが出来る人に委託することを言います。410頭の牛とファームも全てオーナーのブライアンさんの物です。マネージャーは、そのファームの今の状態を保つのはもちろん、今のファームをよりさらに良くする事も仕事です。

 ロッドさんは今のミルクコンディションを良くするため、色々な事柄をしていました。
1  パドックの管理

草の伸びを常にチェックして、いつどこに牛を入れるかを決める。
広いパドックは1/2のサイズにフェンスアップをして、牛を入れる準備をする。
牛が一日どれくらい草を食べればよいかを計算し、フェンスアップするサイズを決めます。
アザミ、ラグウォットなどの雑草の駆除。
草の成長が悪い時はフードライザーなどの、肥料を追加。
水はけが悪い畑などは、客土、排水の設備を作る。
勾配が激しいパドックはなだらかにする。
レインの幅を広げるなどにより、パドックに置いてあるトロフの水の量を調整する。
コックは正常か?などをチェックする。フェンスの破損、電牧線に電気は通っているか?

2 

餌の管理

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フィーダーワゴンでの餌やり風景

 僕がロッドさんの所に行った時は、2月頃だったので、まさに真夏でした。NZは冬に雨がよく降り、夏は乾燥する気候でした。ロッドさんの所では初めて見る餌を与えていました。トゥーナップスという飼料用のカブで、5枚の畑をトゥーナップスにしてそれを毎日決まった分量牛に与えていました。ロッドさんは、カブを与えるとミルクの質が良くなると言っていました。

 ファームを、1herd、2herd(群れ)という風に大きく2つのエリアに分け、1herdのエリアと2herdのエリアを作り、カブの畑も二つに分かれていて別々のエリアに牛を入れます。

 3月半ば、草の伸びも最悪でパドックの回転を遅くしました。グラスサイレージの量も増やして、カブ、メイズのサイレージ、”パームクーノル”というヤシ、コーヒー粕などを粉末にしたものなどを与えました。デントコーンの収穫もして大きいストックを作りました。季節的には、牛の体内にいる仔牛が大きくなり、段々と乳量が減ってくる季節でもありました。

 パドックは全部で約60箇所、約151ヘクタールで、パドックシフトのペースは30日のサイクルでした。春など、草が良く伸びる時期は、25日のシフトサイクルでした。春は草の伸びが早いからといってあまり草を伸ばし過ぎると、牛がパドックに入った時草が多すぎて全部綺麗に食べきれずに草が残り、次に新しい柔らかな草が生えてこなくなり乳質も落ちるという事でした。餌の管理は一番大変だと思いました。NZみたいに放牧だと気候に凄く敏感でロッドさんは雨が降ると凄く喜びました。僕も雨が降ると嬉しかったです。


3 

牛の管理

 2ヶ月に一度、ハードテスティングといって日本で言う乳検が行われます。ハードテストの人がファームに来て機具をプラントに付け、一頭一頭の乳量、プロテイン、脂肪、その牛が乳房炎にどのくらいなりやすいかの数値などをデータとして出し、その数値があまりにも高い場合は乳房炎になっていないかをもう一度チェックします。

 牛は意外にあっけなく死んでしまう事があると思いました。ちょっとしたファーマーのミスで次の日牛が死んでいるという事もあります。例えば、ドレインにフェンスを張るのを忘れそこに牛がはまり次の日死んでしまったり、丘で横転し首の骨を折って死んでいたりなど、ファーマーは常に危険な所を見つけてそういった事故を未然に防ぐというのも大切な事だと思います。

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ニュージーのすばらしい朝焼け

 NZのファーマーは6月から新しいシーズンが始まります。その為、大体のワーカーが、新しい仕事場を探して移動を始めます。ロッドさんも、新しいワーカーを探して、何人もの若い人達を面接していました。NZでは、ファーマーは人気の仕事です。

 NZの生活は、始めは慣れるまで大変だったのですが、ゆったりとしたNZの人達の生活はとても過ごしやすかったです。自然が綺麗で、良い人が多かった様な気がします。

 NZでは3軒のファームに行きましたが、毎回自分が気にかけていた事は、そのファームごとに生活の仕方が違う中で、自分がどれだけ合わせていけるかと言う事でした。自分では伝えなくてもいいと思える事でも、周りで生活している人は意外に気にしていたり、研修生の気持ちを知りたいと思っているのではないかと感じました。感情は素直に顔に出し、表現することが大切だと思います。

 自分がやった事がそのファームの歴史にずっと残ると思うと、毎日大きな仕事をやらせてもらえているんだなぁと思い一つ一つ大事に、仕事をさせてもらいました。会う人会う人皆温かく迎えてくれて、僕はNZの研修を凄くいいものにすることが出来ました。今は、ある農場で牧草の仕事を思いっきり勉強、仕事、としてやらせてもらい、NZでやってきたことを活かせたらいいと思います。