ニュージーランド

野菜 男性

<ニュージーランド野菜研修>

はじめに
 英語を学び、視野を広げるために、海外へ行きたいと思っていた。農業にも関心があった。社団法人北海道国際農業交流協会の海外農業研修プログラムがあることを知り、ニュージーランドに行くことにした。期間は2007年7月27日から1月26日までの半年間。最初の滞在1ヶ月間は、英語と海外の生活に慣れるために語学学校に行くことにした。オークランド郊外にあるコヒマロマでホームステイをしながら英語を勉強した。その後約5ヶ月間、北島・南島を移動しながら六つの農場で働いた。有機農業に興味があったため、有機農家を中心に滞在することにした。以下、六つの農場について報告する。

1. Audrey & Dorothy Sharp(ワークワース)
滞在期間:2007年8月25日~9月7日
 ニュージーランドでの最初のファームステイ先である。北海道国際農業交流協会の現地スタッフが、この有機農場を紹介してくれた。以前にも同協会からの研修生が滞在したことがあり、評判が良いという農場だ。
(1)農場の概要
 オークランドから長距離バスに乗り、約2時間でワークワースという小さな町に着いた。待ち合わせ場所に来たオードリーは、やや大柄の女性で、自ら農場経営をするとともにオークランド市内の大学で講師もしている。日本にくわしく北海道にも行ったことがあるという。すぐに会話がはずんだ。その農場には、常に数名が住み込みで働いているという。「ウーフ」と言い、労働力を提供する代わりに食事と住居を頂く。金銭のやり取りは無い。彼らウーファーと一緒に働くことになった。

 町から車で移動し10分くらい、周りを山に囲まれ、自然しかないといった所に農場はあった。ここはニュージーランドでも数少ない「パーマカルチャー」を実践している農場だ。小さな山を所有し、山道には各種フルーツの木が植えられ、鶏小屋やガーリック畑がある。小さな動物園みたいなところだ。
 パーマカルチャーとはパーマネント(永久)とアグリカルチャー(農業)を縮めた言葉で、「人間にとっての恒久的持続可能な環境をつくり出すためのデザイン体系」のことである。「有機物質の循環」特長だ。

 オードリーは、週に数回ほど町のレストランから出る食物残さを無料で引き取っている。それを農場からでる人ふん・鶏ふんと混ぜ、堆肥にしている。堆肥に人ふんも利用する。ここへ来て最初に驚いたのは、「コンポストトイレ」が置いてあることだった。この見たことも聞いたことも無いトイレは、水洗トイレと違い水を使わないのが特徴で、ウッドチップを撒くだけの原始的なものである。トイレの下には大きなバケツがあり、満杯になると堆肥場に運ぶ。ウーファーを常時数名雇っているオードリーにとって、堆肥に有効利用できること以外にも利点がある。水の節約である。意外にもトイレは、家庭における水の総使用量に占める割合が多いのである。ニュージーランドでは水は大変貴重で、料金も日本と違って割高である。またニュージーランドの家庭での独特の水道システムが関係しているとも感じた。一般的に日本では、水道管と蛇口が直接繋がっており断水の心配はほとんどない。一方、ニュージーランドでは、水をタンクに貯めそこから給水している。水の使いすぎが原因で断水が起こることもある。
 
 山から木を切りだし薪つくるのも大事な仕事の一つである。切り出された薪は、斜面で壁のようにきれいに積み上げられ長期間乾燥させられる。乾燥後、重量は以前の半分以下になるそうだ。そうして出来た薪は、オードリーが経営する小さなショップで売られる。ウーファー宿泊施設も薪ストーブがありこれを使用する。そこから出た灰は、ガーデニングの肥料として最高なのだという。この循環システムが、パーマカルチャーだ。

(2)農場での生活
 ここでは、1日5時間程度の労働だった。ウーフ登録されているファームでは、1日の労働時間は、5~6時間程度というのが大半なのだという。労働者に給料を支払うわけではないので、長時間働かせない。働かせすぎると協会にクレームが入り登録をはずされることもあるという。朝8時から昼の1時まで働いた。仕事内容は、鶏小屋の掃除、山道の補修整備、ガーリック畑での追肥、週1回のコンポストトイレの掃除などであった。
 昼食を済ませた後は自由時間だった。みんなで野球をして遊んだりもした。毎日夕方5時から犬の散歩に出かけ1日が終了する。仕事終わりの夜は、毎回みんなで映画を見た。料理は、それぞれ順番で担当し、毎回違うエスニック料理が楽しめた。集まったウーファーは多国籍で、違う国の話もでき、あきることもなかった。なにより自由な時間が十分あったからこそ、ここでの生活を満喫できた。
2. Eco-Organic Farm(ワイマウク)
滞在期間:2007年9月7日~10月7日 /2007年10月23日~11月2日
 
(1)農場の概要

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 2つ目のファームステイ先として選んだのが、多品目少量生産の有機農場である。オークランド市内から車で30分程の郊外にある、都市近郊型の農場といったところだ。農場主とその妻のほかパートタイマーのロビンとスチューが主な労働力である。経営面積7.6haでやや規模が大きな農場で、家畜は飼っておらず果樹・野菜の栽培のみである。品目はシルバービーツ、小ねぎ、グリーンケール、ビーツ、キャベツ、パセリ、ズッキーニ、ストロベリー、カボチャ、キューイフルーツ、梨、リーキなどその他多数である。

 この農場の最大の特徴は、ショップを開いていることである。ホームページ上で注文を受け、週2回野菜の詰め合わせセットをオークランド市内の客に発送している。
この他に土曜日に自宅のガレージでショップを開いている。自前で栽培できない野菜や加工商品(シリヤル・ジャム・ジュースなど)は他所から買い付けている。品揃えもよく、客はほとんどの食材をここで買うことができる。他所のファームでは、なかなか真似できない点であると思った。客の大半はリピーターで、数年前に広告を出してから、ずっと来ている人もいるという。野菜の箱詰めセットの売れ行きは順調そうに見えた。しかし、土曜のガレージショップは忙しいときとそうでない日があった。有機野菜をつくってもマーケティングが課題なのは、どこの国も同じなのだと感じた。 


(2)農場での生活
 ここもウーフと同じ条件で、労働力を提供する替りに宿泊施設・食事と交換する農場だった。1週間のうち6日仕事をして毎週日曜が休日、朝の8時から夕方の5時まで働く。約8時間と無給ファームとしては、労働時間はやや長い。実は、この農場ウーフ登録はされていない。
 仕事は、主に野菜の収穫と週2回の野菜の箱詰めである。また、滞在期間の後半は初夏にあたり、雑草取りも重要な仕事の一つになった。

 野菜の箱詰め作業は、消費者の反応がわかる興味深い作業であった。農薬を使わないため、有機野菜は多少なりダメージを受けたものが少なくない。客にとって、どの程度までが許容範囲なのか分かる。このくらいは大丈夫だろうと思い、少し傷や虫食いがある物を入れてしまうと、その客からクレームが入る。次回の注文表には「 Check Well 」というマークがつく。それからはその客には、特に綺麗な商品を入れるように気をつけるのだ。ニュージーランドの消費者は有機農産物に対して理解が進んでいると聞いていたが、見た目の綺麗さもかなり重要視するようだと感じた。

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 この農場での滞在期間中に、行動範囲を広げたいと思い中古車を$950(日本円で10万円くらい)で買った。かなりおんぼろ車で色々な箇所が壊れていたが、息子のジェスが修理を手伝ってくれた。土曜の夜には、オークランドに出かけ語学学校で知り合った友人と食事に行った。夜は、旅行者向けのリーズナブルなバックパッカーに泊まった。

 農場主とその家族は、とても親切だった。農場最後の夜に、農場主が所有するヨットに乗せてもらい約2時間のオークランドハーバーでのナイトクルージングを満喫した。そこからの夜景はとても綺麗で言葉にできないものがあった。とても勉強になるので、有機農業に興味がある人には、ぜひお勧めしたい農場である。


3.

Gordon & Russell Grant(タウランガ)
滞在期間:2007年10月8日~22日
現地担当者に花卉農場に行かないかと誘われた。違うものを見に行くのも経験だと思い行くことにした。
農場での生活

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 Gordon & Russell Grant農場は、オークランドよりバスで南へ4時間くらい行ったタウランガにある。温暖な気候でツーリストにも人気の場所である。
 バス停まで迎えに来てくれた長身の男性ラッセルがここのオーナーだ。両親と一緒に暮らしていて一人で農場経営している。ここもたまにウーファーが来て作業を手伝うそうだ。
毎日バーベナムという花の箱詰め作業をすることになった。ラッセルが花の収穫作業を担当した。僕がそれを12等級毎に分けラッピングし、箱に詰めていった。朝8時から3時までの約6時間同じ作業をした。
 
 ここの場所では、すごくリラックスできた。案内された部屋はすごく綺麗で、3人ぐらい住めそうな部屋を貸し切りで使わせてもらった。食事はラッセルと共同で作った。ラッセルの創作料理と毎晩ワインまでご馳走になってしまった。ラッセルはとにかく話好きで、時には3時間以上話した時もあった。
 休日は母親が英語のフリーレッスンをしてくれた。多くの日本人が英語の勉強のためここのファームを訪れるのだという。僕が帰る日にも一人の高校生が来るといっていた。教えるのが上手で、僕の英語の弱点を鋭く指摘された。ラッセルの兄弟が帰ってきた時には、食事にも誘ってくれてとても暖かい家族だった。

4. Tim Edgecombe Horticulture(ケリケリ)
滞在期間:2007年11月5日~12月2日
 当初から計画していた給料をもらえる農家に行くことにした。南島への渡航資金を稼ぐためだ。現地担当者が紹介してくれたのは、ケリケリにあるズッキーニ農家だった。北島の北端に位置するケリケリは、オークランドから約350kmの距離にある。自分で買った車でのんびりと行くことにした。オークランドを朝8時に出発し、ケリケリへ着いたのは夕方6時頃だった。この日はもう遅いので部屋だけを案内してもらうことにしたのだが、まだ働いている人がたくさんいた。みんな若者だった。すぐに直感で有給の農家は、今までいたところとは違うと感じた。

(1)農場の概要

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 主にズッキーニと花、その他にナスなど栽培している農家だ。有機農家ではなく農薬・化学肥料を使う。ズッキーニ畑は比較的規模が大きく約5haだ。常時、5~6人の労働者がいるという。その大半が格安の宿泊施設であるバックパッカーに貼り出された広告を見てやって来る外国人旅行者だ。アジア・ヨーロッパ・中南米など様々な国からやって来る。僕と同様に、ほとんどの人が旅行資金を稼ぐための短期労働者である。
 給料は時給制で、ニュージーランドの最低時給の11ドル25セント(2007年現在)である。農作業は、単純作業が多いため最低時給が多いようだ。


(2)収穫作業
 

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 ズッキーニの収穫作業は、とにかく大変だった。作業中は常に中腰になるため腰が痛くなる。さらにケリケリはとても日差しが強く暑い場所だ。サングラスをつけながら収穫作業をした。収穫作業は朝8時から夕方の5時頃まで続くため辛抱強さが必要だった。
 また意外だが、収穫は繊細な作業だった。ズッキーニの規格は、Medium、Small、Large、Second(規格外)の4つに分類される。1kg当たりの価格はMediumサイズが$4、その他は、$2.5である。このため、価格が一番高いMediumサイズのみを収穫することになる。タイからやって来た現場監督者が、他の労働者を見張っていて、取り残しがないか、間違って小さいサイズを収穫していないか、常にチェックしている。というのもMサイズを取り残すと翌日にはLサイズになって、値段が半額になってしまう。ケリケリは温暖なため野菜の成長がとても早い。また、ここでは多くのワーカーが解雇になっていた。その理由は様々だが、僕が滞在した1ヶ月の間に3人が辞めていった。収穫作業自体、背が高い人には不向きだ。ズッキーニの苗は60cmくらいと低く、体格の大きいヨーロッパ人には向かないのかもしれない。
 

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 収穫の後は、パッキングの作業である。サイズ毎に箱詰めしラベルを貼る。この作業は、比較的楽だった。しかし、この作業が時には夜の12時まで続くことがあった。ある時は、翌朝3時までの1日18時間労働をしたこともあった。毎日が長時間労働だった。時給制なので、旅行資金を稼ぐためと割り切って仕事をした。
 仕事は辛かったが、仲間には恵まれた。一緒に働いていたアルゼンチンの2人とタイ人と楽しく働けた。よくタイ料理を作ってもらいパーティーを開いたりした。


(3)農薬をまく仕事

 このファームは有機農家ではないので、当然農薬・化学肥料は使う。特に食用ではない花には頻繁に農薬を撒いていたと思う。ある日の夕食の時間、オーナーがトラクターを使って農薬を撒いたため、あたり一面が霧に包まれたことがあった。信じられないが、花に取り囲まれるように、ここの家は建っているのだ。隣の部屋からは誰かが咳き込んでいるのが聞こえた。農薬に対してすごく無関心であると感じた。

 化学肥料を撒く仕事もした。有機農業に関心のある僕にとっては、少し抵抗のある仕事だった。しかし、こうした作業をしたことは、普段なら考えつかないことも考えるきっかけになった。あたりまえのようだが農薬・化学肥料の使用でもっとも被害を受けるのは労働者(農家)であるということだ。今までは消費者寄りでものを考えていた。大学にいたころ、日本の農家が有機農業を始めるきっかけを調べたことがあったが「消費者に安全な農産物を届けたい」という理由が多かった。建前と本音があるかもしれないが、少なくとも日本の社会では消費者寄りでものを考える傾向が強いと思われる。ただ、実際にその仕事をしてみると、本当の被害者は現場の人だと気づかされる。言い換えると、有機農業において化学薬品の健康被害のリスクが減るという意味では、その恩恵をうけるのは消費者よりもむしろ労働者なのだ。ニュージーランドの農家は、なぜ有機農業を始めたのかと聞くと「化学物質が嫌いなんだよ」という。「反面教師」という言葉があるが、どんな農場に行っても問題意識があれば、そこから何かしら学ぶこともあると思った。

(4)外から見つめて初めて感じたこと
 海外で初めて給料を稼いだ、ということでお金についても考えさせられた。農作業の時給は、たいてい最低賃金の11ドル25セントで、これは日本円でいうとだいたい1000円(2008年1$=87円と考えて)ぐらいである。一方、日本は地域差があるが北海道が667円。相対的に日本の賃金は低いと思う。日本は、労働分配率が低く不平等度が高いのではないかと感じた。

 また、こっちで驚かされたのは、日本人ほど働いてない人が日本人より豊かな生活をしている。物質的な豊かさではく、時間の豊かさだ。車は新車ではなく中古車ばかりだし、ブランド物なんてほとんど見ない。質素倹約の代わりにゆとりを大事にする。日本では、人口減少により経済成長が期待できなくなってきている、とよく言われる。いまや成長経済時代とは違って、働けば働くほど物質的に豊かになる時代でもない。「過労死」という言葉が海外でも有名なくらい、日本人は働きすぎなのだと感じた。ニュージーランドの人達のような働き方も、日本の現代社会で豊かな暮らしする上ですごく参考になると感じた。

 また、最近よく聞くようになった所得格差の広がりと、農産物との関わりについて考えてみた。それまで多かった中間所得層が減っている。その一方で、一部の富裕層の所得はさらに増え、ネット難民・派遣労働者・生活保護を受ける人など貧困層は増加している。この所得格差の進行は、食料自給率にとって良くないことだと思う。国内農産物は外国産と比較して価格が高い。中間所得層が減少することは割高な国内農産物を積極的に買ってくれそうな人達が減ること意味する。貧困層はというと、お金に余裕がないので価格の安い外国産を買うだろう。富裕層はお金に余裕はあるが、総人口に占める割合が少ないのであまり期待できそうにもない。体は一個しかないのでお金が余っているからといって余分に買うわけでもない。国内農産物にとって好ましくない社会状況であると思う。

 ある人と話していたら、「ニュージーランドも所得格差が進行しているが、それでもまだ中間層は多いのだと」と言う。確かにそうかもしれない。有機農産物のお店に来る客もいかにもお金持ちという感じではなかった。ごく普通の地元の客が買っている。購買力があるのだ。


5.

Brent Ferretti & Kevin Lubbersen(ネルソン)

滞在期間:2007年12月8日~22日

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 いよいよ南島に行くことした。車で南島に移動するためには、フェリーが出向する北島南端にある首都ウェリントンまで行く必要があった。ケリケリからの距離は約1000km。途中オークランドに寄って友人と会い、2日をかけて車で移動することにした。今まで十分過ぎるほど働いたのだから、南島ではゆっくりしようと決めていた。残りのファームはいずれもウーフだ。
 最初の目的地のネルソンは、通称サニーネルソンと呼ばれ、日照時間がとても長く温暖な所だ。ここのファームは、とても評判が良いと聞き、行くことにした。


農場の概要

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 ブレントとケビンが共同経営する農場だ。経営規模約4haで、小ねぎ、ビーツ、キャベツ、ズッキーニ、カボチャ、梨、馬鈴しょ、人参、ニンニク、大豆など各種野菜をつくる有機農家である。日本でいう多品目小量生産の農家といったところだ。その他に鶏を飼っている。労働力はオーナーの2人と常時数名いるウーファーだ。
 ここで取れた野菜は、サタデーマーケットに持っていき売られる。サタデーマーケットとは、日本で言うフリーマーケットといったところだろうか。違う点は、日本では古着など売っているイメージだが、こっちはより地域性が出ており地域の食材・工芸品などが売られているのが特徴だと思う。
 
 夏場のこの時期は雑草取りが主な仕事だった。その他、各種野菜の収穫、梨の剪定などをした。
 労働時間は1日約4時間。今までの農場で一番短かかった。昼の12時半には仕事が終わった。かなりゆとりがあったので、興味があった釣りにチャレンジしてみようと思いたち、近くのビーチへ行くことにした。ニュージーランドではタイが釣れるという話が有名だからだ。タイは小さいのしか釣れなかったが、代わりにマッスル(日本で言うムール貝)がたくさん取れた。ニュージーランドのマッスルはとても大きく、日本で見かけるものの3倍くらいはあった。海洋資源物の規制があり、一人15個までしか取れない。これにワインを少し入れて蒸すとすごく美味しいのだ。毎日のように一緒に働いていた仲間とビーチへ出かけた。休みの日は、近くのプールへ行ったり、バーへ飲みに行ったりもした。ここの農場では、農作業とアクティビティーをバランスよく楽しめた。オーナーは二人とも優しく、評判が良いのもうなずけた。


6.

The Organic Patch (TOP) Ltd(ダニーデン)

滞在期間:2008年1月4日~19日

(1)農場の概要

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 ニュージーランドでの最後のファームになるThe Organic Patch (TOP) Ltdは、ダニーデンにある。南島では、農業が出来る最南端の地域だ。そのダニーデンの郊外モスギールにある有機農家に行くことにした。シルバービーツ、ビーツ、キャベツ、リーキ、ニンニク、馬鈴しょ、人参、豆などを栽培している。比較的小規模で経営規模は約1haだ。
 
 ネルソンのファームと同様、ここのオーナーは、取れた野菜を週一回開催されるサタデーマーケットで売る。ダニーデンのサタデーマーケットは、食べ物だけに限定した小規模なものだった。そこでの売り上げは一日約$300~500だそうだ。収入の約30%を占めるという。

 ここで面白かったのは、海藻を使った堆肥づくりに取り組んでいたことだ。原料は、オタゴ半島にあるビーチで収穫する。この際、堆肥に砂が混ざってしまうが、農場主曰くそれほど問題ではないらしい。ここの圃場は粘土質の土壌が多く硬い。もっと有機物を投入し土壌を改良する必要があると言っていた。


(2)農場での生活

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 小規模な農家だったので、それほど仕事量は多くなかった。仕事は、雑草取り、ニンニクの収穫、シルバービーツ・キャベツの定植、農場主の娘ヘレンの家の掘起し(ガーデンが坂になっていたのでフラットにする作業)、農場主の妻 アニーの家で薪作りなどをした。
 休暇には、農場主夫婦とその友達とセーリングに行った。一人乗りのセーリングボートで、操縦は僕にとって難しかったので乗せてもらうだけにした。アニーは凄くうまかった。農場主もかなりはしゃいでいた。ニュージーランド人は本当にセーリングが好きな国民だと思った。

 ここに来て一番よかったことは、農場主と色々な話ができたことだ。他のファームでは、オーナーは忙しかったので、なかなか長時間話す機会がなかった。ここでは、有機農業のことはもちろん、いままで働いてきた農場のことや、ガーデニング、社会問題のことなど色々と話すことが出来た。また面白いことを教えてくれた。「ニュージーランドの卵が濃厚で美味しい」と話したら「こっちには、フリーレンジの卵がある。鶏はゲージではなく放し飼いにされている」と教えてくれた。ニュージーランドには、普通の卵(日本で見かけるものと同じ。鶏はゲージに入れられ配合飼料で育てられる)、Free Range、Organic、Free Range/Organicの4種類があるという。放し飼いでしかも有機的に育てられた鶏の卵が一番美味しいというわけだ。将来的に日本のスーパーでも見られるようになるかもしれない。そうすれば消費者の選択が広がる。

 サタデーマーケットに行く時間は朝6時と早かったのだが、僕もついていくことにしていた。マーケットにも興味があるし、市内観光もしてみたかったからだ。ダニーデンは南島南部の中核都市の一つで比較的大きいのだが、日本の都市と比較すると圧倒的に小さい。北海道の江別市と同じ規模ぐらいだと思う。ニュージーランドでは、小さな町・村でも活気に満ちている。商店街にもたくさん人がいる。商店街のシャッターが閉じられている日本では、考えられない光景だ。ニュージーランドでは地域性とか個性といったものがあると感じた。日本の地域は、個性を失ってしまったため、どこへ行ってもみな同じ。その結果、衰退してしまったのではないか。最近、日本でも「地場産」や「地域限定品」などという言葉が多く聞かれるようになってきたが、地域の活性化のヒントがそこにあると感じた。


最後に

 帰国前日、たまたまネルソンで知りあった人と帰国する日が同じだったためオークランドに一緒に飲みに行くことにした。お互いの滞在期間を思い出しながら、時間が過ぎるのがあっという間だったと語った。1ヶ月間の語学学校に六つの農業研修、合間に行った旅行とたくさんの経験が出来た。充実していたからこそ時間を短く感じたのかもしれない。

 僕は、農業経験もそれほどなく、大学では専攻分野も社会学系だった。だからこそ広い視野で農業を見ようと思ったし、また、せっかく外国に行くのなら農業だけじゃもったいないと他の経験もした。農業は、それだけで独立できているわけではなく他のさまざまな要素が関係してくるからだ。当然、気候・風土や地球環境の変化(温暖化や異常気象の発生)には大きく影響を受ける。もちろん国内の政策・WTO・FTA・科学技術の進歩などにも。さらには、消費者の生活環境にもだ。

 また、農場で一緒に働いていたアルゼンチン、旧東欧圏の人達と話ができたことで刺激も受けた。彼らの国では経済危機を経験した。経済が破綻しても国民が生き残れたのは、食料があったからだと教えてくれた。改めて自国で食料をつくる大切さに気づかされた。食べ物さえあれば生きていけるが、なかったら死んでしまう。この当たり前の事を想像できる日本人は数少ないのではと思う。
 外から見て初めて気づく日本のことも多かった。この研修の大きな目標である「英語によるコミュニケーションと幅広い視野を持つこと」は達成できたと思う。

 最後に、このような機会を下さった社団法人北海道国際農業交流協会と農場の紹介やお世話をして下さった現地担当者に、心より感謝致します。