ニュージーランド

農業 男性

<ニュージーランド農業研修レポート>

1. はじめに
 私は、この度北海道国際農業交流協会のお世話になり、ニュージーランド(以下NZ)で農業研修させていただきました。農業を継いでいて冬の農閑期を利用して海外で研修したいと思ったので、季節が日本とはちょうど反対のNZを選びました。5ヶ月という短い間でしたが、NZの農業を体感し得たものはとても大きかったと思います。

2.

研修期間および研修農場

(1) Wilcox(大規模野菜農場)  11.5~3.13
(2) Tree Hugger(小規模有機農場)  3.16~3.31

3.

研修農場の概要と研修内容について

(1) Wilcox(大規模野菜農場)
 この農場はオークランドから南に下がったところにある、プケコへという町にあります。この辺りは北島の中でも大規模な野菜の生産が盛んで、その背景には起伏が激しいNZの中で割りと平坦であること、大都市オークランドに近いこと、野菜を輸出するための港が近いことがあります。

 この農場では、玉ねぎ・じゃがいも・人参を生産するだけでなく、流通、販売、さらには輸出まで手がけています。会社の部門は、現場(生産)・輸送(トラック)・整備工場・選別工場・パックハウスなど複数に分かれています。私たち日本からの研修生は主に現場のトラクタードライバーとして働きました。

 自分が行った時には、じゃがいもと人参の収穫がすでに始まっていて、最初の1週間ほどは人参の収穫が主でした。
 人参の収穫方法はトラクター直装式のハーベスタで1畝ごとに人参を葉ごと堀り上げコンベアで送られる途中で葉や泥を落とし、併走する私たちが運転するトラクターのトレーラーで受けるというものです。トレーラーにはビンと呼ばれる木製のコンテナが3つのっかっており、それがいっぱいになるとshedと呼ばれる格納庫まで運びます。そこでリフトを使ってビンを下ろし、空のビンを載せトラクターを畑に走らせます。この作業を2台のトレーラーを使って繰り返します。

 収穫以外で一番した仕事はイリゲーションの仕事です。イリゲーションとは、潅水装置のことでじゃがいもや玉ねぎの畑に水道水や池の水をまきます。夏の降雨量の少ないNZでは畑が乾燥して作物が十分に成長できないのでこの作業をします。ただしすべての畑でできるわけではなく水道が引いてあるところや池があるところに限られます。この作業はとても手間のかかる作業でした。

 じゃがいもの収穫方法はハーベスタに、人参と同じようにトレーラーを併走させてビンにじゃがいもを受けます。ハーベスタは3台あり1畦掘りと2畦掘りの牽引式のもの、自走式の2畦掘りのものがありました。自走式のものはとても大きく作業スピードが速かったです。ただ面積の小さい畑では回るのに苦労したり、草の多い畑では詰まった草を手で取り除いたりといったことがありました。

 玉ねぎの収穫が本格的に始まったのは1月の下旬で、収穫方法は牽引式のハーベスタにトレーラーを併走させます。他の作物と違いハーベスタのスピードが速いためトレーラーを上手く合わせられず、ビンから玉ねぎを落とすこともありました。1台のハーベスタに4台程のトレーラーが付きます。1日に400ビンを収穫する日もありました。機械での収穫はあっという間ですが、収穫の前には、葉を切る作業があり、それは3、40人程のアイランダ-と呼ばれるNZ近隣の島出身の人の仕事でした。全て手作業で葉を切り、ハーベスタが入れるように玉ねぎを列にして置いていきます。この広大な玉ねぎ畑の葉を全て手作業でしていることに驚きました。

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赤玉ねぎの収穫前 玉ねぎの収穫風景

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トラックへの積み込み 草が多く小さい玉ねぎ

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大きなトラクター 畑へ向かう途中の景色

 雨の日は、トラクターや車(会社から畑の移動に使う)の洗車をしたり、整備工場の手伝い、納屋の片付けをしたり、また選別工場でリフトに乗る仕事もしました。ほとんどがトラクターに乗る仕事だったので、他の部門の仕事は新鮮でした。

 労働時間は朝7:00に出勤し、午前と午後に15分ずつの休憩、30分ほどの昼休み、夕方6:00くらいに仕事が終わりました。遅いときは7:00や8:00の日もありました。休日は日曜日だけでしたが、クリスマスと正月にそれぞれ4日ほど休みをもらいました。

 この農場で1番苦労したのが、働いた当初は英語がわからなかったので、他の労働者との意思疎通が上手くとれなかったことで、指示されたことが簡単なことでもわからなく迷惑をかけたことです。遠い畑までトラクターを1人で走らせるということがあるので畑のある地名をしっかり覚えなければいけないということもありました。

 農場主とは少ししか話せませんでしたが、現場の従業員だけでなく、どこの部門のスタッフもフレンドリーで笑顔で接してくれました。クリスマスには会社全体でパーティをしたり、私たちが辞める前には、現場のスタッフでオークランドから船をチャーターして釣りに行ったこともあり楽しい思い出ができました。

  この大規模農場で働いて感じたことは、まず各部門が綿密に連携を取って上手く機能していたということです。畑の大きさはとてつもなく広いところもあれば、北海道でみるような区画と変わらないところもあります。大規模にやっているので管理に手が行き届いていないため、草がひどく作物の生育が良くない畑が目立ちました。玉ねぎは直播栽培のため収量が少なく日本より球が小さいものがほとんどでした。大規模にやっているから収量が少なくてもカバーできるのかと思います。

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いもの収穫 にんじんの収穫

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イリゲーションの様子 export pack-house にて

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大型トラックの前でドライバーと 研修の最後に
(2) Tree Hugger(小規模有機農場)
 この農場は南島のクライストチャーチとダニーデンのほぼ中間にある、ティマルという町の中心地から20分ほど南に下った所の国道沿いにあります。国道沿いにあるという利点を生かして、直売所を設け野菜や果物を販売しています。30代のナーサンというオーナーと奥さんのステファンがいますが、奥さんはティマルの町に働きに出ています。他にウーファーのカナダから来た人がいました。

 仕事は主に畑の草取り、水やり、人参の種まき、いちごの収穫やランナーを移植する作業などをしました。Wilcoxの時はトラクターに乗りっぱなしだったので、手作業による細かい作業は腰が痛くなりました。農場はきれいに作物ごとに分かれていましたが、有機栽培なので草がひどく生えていました。

 直売所は清潔に保たれていて明るくお客さんが入りやすいようになっています。この農場で取れたものの他に、各地のオーガニック農家の商品(加工されたものが中心)を販売しています。ズッキーニやガーリック、人参、じゃがいも、玉ねぎ、トマト、パプリカ、いちごなど沢山の野菜がきれいに並べられていて、天井からガーリックを吊るしてあったり、店の入り口にりんごの木の鉢植えが置かれていたりと店のレイアウトには創意工夫が見られました。
ここでの仕事は朝から晩まで働くのではなく、決められた仕事を1日の中で終わらせればいいというものだったので、気楽に働くことができました。短い期間でしたが、直売所など、今後の自分の経営の参考になるものがありました。

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国道から見える看板 いちご畑(草が多い)

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きれいに管理された果樹園 直売所の前で

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きれいな店内 たくさんある商品
4.  
研修を終えての感想
 短いとわかっていた5ヶ月はあっという間で、1年ぐらい居たかったというのが正直な気持ちで、もう少し色々な農場を見て回りたかったという思いがあります。大規模野菜農場と小規模有機農場という相反する農場で研修しましたが、どちらも今後の自分の経営に活かせるところが見えてきました。やはり、その土地条件、自然条件にあった作物を経営にあった規模だけ作るというのが大切だと思います。

 NZは総人口約400万人で、生産した農産物をすべて国内で消費することは難しく、海外に輸出しなければなりません。生産農家数も少なく大規模な面積でコストをなるべくかけずに農産物を生産しています。反対に日本は、総人口約1億3000万人で、食料自給率41%という数字からもわかるように、食料の半分以上が海外から輸入されてきているのが実態です。日本にないものが輸入されるのではなく、同じものでも海外でコストをかけずに生産され日本の農産物より安く消費者が買えるため、大量に輸入されてきています。私の家では玉ねぎをメインに作っているのですが、Wilcoxでみた玉ねぎの品質はあまりいいものではありませんでした。こういったものが日本にも輸入されていますが、これに対抗するには、いかに品質のいいものを限られた面積でたくさんの収量を作るかだと思います。

 私は海外で生活したのは初めてで、来る前は不安もありましたが、現地担当者、Wilcoxでともに働いた北海道からの2人のおかげで、なにも困ることなく過ごすことができました。ただ研修の大半を日本人と過ごしていたため、海外にいるのに英語より日本語で会話する時間が多かったので、なかなか英語を覚えることができませんでした。これから研修に行かれる人は、行く前にできる限りの英語を身につけるのはもちろんのこと、研修中も自分から積極的に話しかけるというのが大事だと思います。一番いいのは、自分と同世代の現地の人と仲良くなることです。

 就農して間もないうちにこの研修に参加できて本当にいい経験ができたと思います。これから農業をしていく上で、固定観念にとらわれることなく広い視野で物事を判断できると思います。また、NZに来て、今後他の国にも行ってみたいと思うようになりました。
最後に、今回研修の手続きをしていただいた北海道国際農業交流協会の皆様、お世話になった現地担当者の方、本当にありがとうございました。