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<オランダ酪農研修で学んだこと>

澤田 大

1. はじめに
 僕は去年1年間(平成19年3月28日〜平成20年3月10日)海外酪農研修という形でオランダの牧場で研修生として働いてきた。将来、畜産に携わる仕事をするために現場を見ることは不可欠だろうという単純な動機のもと研修を行ってきたわけだが、結果としてこの1年間で酪農先進国であるオランダの多様な酪農技術やオランダ人の酪農に対する姿勢について学ぶことが出来たと思う。そこで今回このレポートでは僕がオランダで何を学び、何を感じたかについてまとめ、またそこから今度の日本の酪農に活用出来る事について考えていくことにする。

2.

オランダ酪農の概要

 オランダは国土面積41.5平方キロメートル、人口1630万人の小さな国だが、アメリカ、フランスに次ぐ農産物大輸出国である。酪農に関して言えば、2007年の時点で乳牛飼養頭数約147万頭、生乳生産量1090万tと大変多く、ヨーロッパにおいてデンマークとともに生産性の高い酪農経営を実現している。また、輸出農産物に占める牛乳・乳製品の割合も高く、オランダ経済における酪農の果たしている役割は大きいものだといえる。さらに、僕は1年間の研修生活を通じてオランダ酪農のこの生産性や輸出競争力の高さは国での農業支援指導体制のシステムの安定性とオランダの酪農家の新技術の導入への積極性に起因すると感じた。そこで、ここからはオランダの農業者支援システムと実際の牧場での様子に分けて紹介していこうと思う。

3.

オランダにおける農業支援指導体制から学んだこと

(1)農業ヘルパー制度
 オランダ農業に感じたことの1つとしてヘルパー制度の充実が挙げられる。オランダのヘルパー利用組合は日本のように酪農だけでなく養豚、養鶏、ハウス園芸、畑作、ホームヘルパー、花卉園芸等の業種のサービスを多様化させており、専門的な作業のみならず、単純労働なども行っていた。ただ、野菜や花の収穫作業などの単純作業については、そのほとんどを低賃金の東欧人労働者(特にポーランド人)に依存しているというのが実情であり、人種問題や労働環境問題など日本企業での中国人研修生のケースのように社会問題になる可能性も感じた。

 オランダのヘルパー利用組合は収穫繁忙期の短期労働者や長期のヘルパーの派遣業も行っており、オランダ農業経済におけるヘルパー利用組合の役割は日本より大きいといえるだろう。また、酪農分野に限定しても日本より重要度は高かった。日本の場合、ヘルパーの仕事内容は朝夕の搾乳・給餌が大部分を占めるがオランダの場合業務範囲がもっと広く、休暇時の農作業代行はもちろん、削蹄や畜舎修繕、畜舎の洗浄・消毒などの専門技術作業もこなしていた。

 これらの専門技術の中でも特に印象的だったのは削蹄で、牽引式の削蹄車を使い契約先の牧場の牛の削蹄を行うサービスは日本で見かけたことがなかったので、ぜひとも導入すべきだと感じた。また、ホスト農場に来ていた削蹄師曰くヘルパー利用組合の開講する削蹄師のコースを2、3週間受講することで資格を得られるらしく、ヘルパーとして経験をつみ独立する場合もあるらしい。舎飼の多い日本の飼養形態において削蹄師の潜在的需要は多いはずだが、削蹄師の後継者不足もあり治療を疎かにする傾向にあるのではないだろうか。そういった意味でも、日本のヘルパー事業も事業内容の拡大を視野に入れるべきだと思う。

(2)コントラクターによる支援システム
 オランダ農業を支えている数々の制度の中でヘルパー制度とともに重要なものとしてコントラクター制度がある。これは畜産農家の代わりに飼料の生産、収穫を行う作業委託組織制度のことで、日本での組織数が約150と言われているのに対しオランダでは2500もの組織が存在していた。特に1番草の収穫に関して言えば、実に50%をコントラクターが請け負っているということだった。円安や重油の高騰、オーストラリアの大干ばつ、バイオエタノールの需要増からくる輸入飼料の値上がりが問題となっている現在、日本では自給飼料の生産がますます重要視されてきている。また、家畜飼養頭数の増加による労働力不足や機械施設の老朽化など労働力の面でも問題を抱えている。そのような情勢の中で、コントラクター事業の普及というのは、これからの日本の酪農にとって重要だと感じた。

(3)農業普及指導センターによる支援指導事業(デンマーク)
 1月にデンマークのヘアニングへ畜産見本市(企業展)を見に行ったのだが、この時に訪問した農業普及指導センターという施設が農業支援事業として大変印象的だったので、オランダのことではないが、例外として紹介しようと思う。

 デンマーク農業普及指導センターは日本でいう改良普及センターと研究センターが合わさったような機関で、農業に関する最新の情報を持った全国規模の農業サービスセンターである。国立の研究機関や海外の研究機関との関係も深く、それらの機関での研究結果の情報収集、分析、普及も行っていた。また、農家へのアドバイスを主に行っている地方指導センターと協力して事業を行っているので、研究者と農家の橋渡しとして重要な役割を担っているように見えた。さらに、農家や地方農業センター職員に対する教育事業なども行っていて、農業学校の様な側面もあった。運営は利用者である農家が加盟しているデンマーク農民組合連盟とデンマーク家族農業者連盟という2つの農民組織が出資して行っており、農業省からは独立しているらしく、収入もほとんどが独自事業で賄われているということだった。

 また、デンマークには農業普及センターとは別に各地方に地方農業指導センターが設けられていて、これらも農業普及センターと同様に2つの農民組織の元に運営されているが、その業務内容は農業普及センターに比べると、農家に対してより直接的なサービスが主だということだった。特に農場会計や経営管理部門は、農家数減少とそれに伴う農場規模拡大により農家の経営管理が難しくなってきている中、その需要の高まりと共に重要性も増してきているようで、施設内の職員の数も多く感じられた。事実、ヘアニングの農業普及センター勤務のパレ・ホイ氏の話によると、実際スタッフのうちの7割程が農場会計・経営管理の担当者だということだった。

 さらに、デンマークでは農業教育のシステムも優れていた。デンマークの農業学校では、まず入学後2ヶ月間学校で勉強した後1年間農家で実習を行い、その後5ヶ月間再び学校で勉強した後、別の農家で2年間実習を行う。そして最後に5ヶ月間勉強して卒業となり、農業経営者の資格を得ることができる。と、学校で学んだことを小まめに現場で確認できるようになっており、とても素晴らしいシステムだと感じた。日本では、こういった農業教育はなされていない。それは、農業教育機関に回る補助金等が十分でないことや後継者不足などの問題によるものだろうが、次世代の農業者の育成のためにも農業教育は充実させていかなければならないと思う。

4.

実際の現場(牧場)で働いて学んだこと

(1)配属農場について
 ・農場の概要
経営形態 ホスト(Jan Bakker)とIts Van Dellen による共同経営。
よって牛舎数は2つ。
また、Holland Geneticsの乳量調査対象牧場でもある。
飼養頭数 成牛200頭、育成牛250頭(うち50頭が哺乳牛)
耕地面積 160ha→ 牧草/ペレニアルライグラス(60ha)デントコーン(30ha)
小麦(30ha)菜種(20ha)ビート(20ha)
所有機械 トラクター×7(大5小2)、テッダー、レーキ、
ピックアップ付きハーベスター、モーアー、
耕畝機、播種機、肥料散布機、TMR給餌車
搾乳形態 ヘリンボーン型パーラー(10×2)
哺乳形態 生後10日目までバケツ、その後60日目まで哺乳ロボット
(許容頭数30頭×2)
種付け 人工授精師による人工授精(1日1回午前8〜9時)
糞尿処理法 牛舎地下の糞尿タンクで貯蔵。簡易曝気法による
好気的発酵処理後スラリーインジェクタによる散布
飼料貯蔵法 牧草:スタックサイロ×7(5×50×2.5)
バンカーサイロ×1(10×70×3.5)
デントコーン:バンカーサイロ×1(10×100×2)
濃厚飼料(コーン、大豆、コーングルテンフィード、綿実、):プラスチック
サイロ
ビール粕:プラスチックタワーサイロ
ビートパルプ:バンカーサイロ×1(5×30×1.5)
生乳情報 乳量:8500kg(3.45%protein 4.18 %fat)

仕事のスケジュール(日常業務のみ)
1日おきの仕事 1週間おき
4〜7時:牛追い、搾乳、哺乳
7〜12時:サイロのビニール点検・開封、子牛移動、カーフハッチの清掃、削蹄、毛刈り
12〜15時:餌作り
15〜18時:給餌、牛追い、搾乳、哺乳
随時:分娩補助
月:オガクズ散布(成牛)、乳質検査
火:地下糞尿タンクの曝気換気
水:獣医による定期健診
木:フットバス(ホルマリン、硫酸銅)
金:オガクズ散布(成牛、育成牛)
隔週 1ヶ月おき
月:ASG(Animal Science Group)による調査
火:削蹄師による削蹄
木:体型審査、ASGによる調査
パーラー室壁面の清掃
子牛・育成牛の体高測定
敷地内道路の掃除
バルククーラー洗浄
トラクター洗浄
子牛用ストールの藁だし、清掃

 ・飼料
  飼料はTMR形式。35立方メートルのTMR給餌車で午後4時ごろ1日1回のみ給餌していた。泌乳牛、育成牛、幹乳牛で餌は作り分けていたが、泌乳ステージによる作り分けはしなかった。
  ちなみに餌は日々の乳量の変化や糞の状態を観察しながら随時変更していった。また、この年から穀物価格の高騰が顕在化してきていたので、その影響を受けた餌の変更もいくつかあった。具体例を挙げると、濃厚飼料(綿実、大豆)の形状を粉末からペレットへの変更、ビートパルプをペレットからより水分含量の多いものへの変更などである。
  基本的に飼養計画の作成はアドバイザーの助言を参考に農場主(Jan)が行っていたが、餌の種類ごとにその成分と値段が分かる表を自分で作成し管理していた。それを見るといかに自給飼料のコストパフォーマンスが良いかがよく分かった。牧草、デントコーンともにサイレージは廃棄分が15%出ると仮定して計算を行っていたがそれでも購入飼料の半分以下しかコストがかからないようだった。

 ・育種会社(Holland Genetics)の乳量調査対象牧場としての特徴
  第1に挙げられるのが飼育している牛が自分たちの所有物ではないということだろう。あくまで育種会社に委託されて牛の管理を行っているという形式なのである。このことには様々なメリットとデメリットがあったが、働いている上ではデメリットの方が多いように感じられた。

 まず、放牧が出来ない。牧草地は広大にもかかわらず、運河を介する他の牧場の牛からの伝染病の獲得が考えられるので放牧を全く行わず、通年で舎飼いなのだ。ただ、この点に関してはホストが放牧に対してあまり積極的ではなかったので彼らにとってはそんなに大きな問題ではないようだった。彼の意見としては、放牧草ではタンパク質、特に分解性タンパク質(DIP)の含量が多すぎてルーメン内の微生物が利用出来ずその分乳汁中の尿素が増えてしまうから嫌らしい。また、放牧草の採食量が牛によってバラバラになってしまうので餌の栄養バランスの管理が行いづらいというのも放牧反対の理由の1つだった。そう言われて確かにそれも一理あるとは思ったが、日本のように輸入飼料に依存している状況下での飼料穀物価格の高騰を考えるとそれらの問題よりも放牧の必要性の方が大きいと思われた。

 メリットとしては、牛管理の委託金が大きいことが考えられる。残念ながら正確な金額は教えてもらえなかったが、色々な手間を考えると相当な金額をもらっていたと考えられる。僕が働き始めた4月時点では育成牛に関しても生後3ヶ月〜20ヶ月ごろのものはHolland Geneticsに送り返して育成してもらっていたが、2月ごろには離れの牛舎の反対側のストールも整備し、全育成段階の牛を飼育するようにしていた。仕事量は増えたが、その分委託金も増えたと言っていた。

 第2の特徴として飼育している牛のほとんどが初産牛であるということだ。研究牧場として後代検定的役割を担っていたので優れた牛が多く、極端に気性の荒い牛や乳量の少ない牛などはほとんどいなかったように思う。また、乳熱によるトラブル頻度も大変少なかった。他にも持病のある牛というのもあまりいなかった。また、ほとんど毎日初乳を得ることが出来るというのも良い点だった。IBR(牛伝染性鼻気管炎)のウイルス獲得の可能性を完全になくすために雄が生まれた場合は母乳を与えないようにしていたので、子牛に与える分以外の初乳の余剰分をたくさん得られたのだ。そしてそれらを冷凍保存し販売も行っていたので、そこは利点だったといえる。ただ、如何せん初産牛なので、分娩時の補助は随時必要だった。しかも、次々に新しい牛が送られてきており、平均すると1日1頭ぐらいのペースで分娩を行うので、その分の仕事の負担は大きかった。どうしても、夜中や朝方の搾乳時の分娩率が高いのでそれに気を使いながら仕事をしなければいけず、その点は大変だった。

・体型審査について
  隔週木曜日にNRS(オランダ王立乳牛組合)から審査員が派遣され、体型審査が行われていた。毎回25頭〜35頭ほどの牛群が審査のある前の週にHolland Geneticsから指定され、それらの牛の毛刈りを審査日までに行っていた。飼育頭数が約200頭だったのですべて牛が3、4ヶ月に1度は審査とともに毛刈りを受ける計算になり、清潔さを保つという面でも良かった。しかも、牛をよく観察する機会にもなるので発情行動の発見や蹄病の発見などもしやすかった。Holland Geneticsでの乳牛の体型形質の遺伝的改良に関する情報収集を目的として受検していたが、外見上の特徴から牛のよしあしを項目別に判断するこの審査を見ること自体も大変興味深いものだった。
 
 ・その他の取り組みなど
ここで、牛の放牧はしていなかったが草地面積が牛の頭数に対し多めにあったので、近所の農家に8haほど馬の放牧用に貸し出していた。ちなみに、これらの放牧地の管理も僕達が行っていた。放牧の形式は昼夜輪換放牧で、電気牧柵で2haずつ4つのエリアに分けた放牧地に馬を約20頭放し約1ヶ月ごとに区画を移動させていった。放牧開始前の4月上旬に1度刈り揃えを行ったが、それ以降は馬を返す10月までスラリー散布時とエリア移動時以外基本的に手をつけなかった。10月以降は羊100頭ほどを近所の農家から借り受け、その放牧地を含めた20haほどの草地で羊を放牧していた。牧草サイレージ用のすべての牧草の刈り入れが終わってからの草地の有効利用手段として良かった。このように、新しいことに積極的に挑戦するホストの姿勢には驚かされた。


(2)多様な酪農新技術(搾乳ロボット、バイオガスプラント)
・搾乳ロボット
搾乳ロボットが生まれた国というだけあり、酪農家の搾乳ロボットの導入率は高かったように思う。僕が実際に訪問した酪農家でも、10ヶ所中4ヶ所で搾乳ロボットが導入されていた。経営規模はそれぞれ異なり、放牧なしの舎飼いだけで700〜800頭飼育してロボットも10台ほど使用している農家、ロボット1台のみで60頭ほどしか飼育していない農家、150頭ほど飼育して搾乳をロボット2台とパーラーの併用で行っている農家など多種多様であった。
 
 中でも印象的だったのはロボット1台分のみ飼育している農家で、ロボット導入により生まれた時間を有効に利用していた。そこの牧場主は酪農家としてだけではなく公務員として図書館で働いているという兼業農家で、朝図書館に行く前に餌やりのみ行いそれ以外の仕事(サイロの切り出し、畑仕事など)はヘルパーに任せていた。「搾乳ロボットの稼動状況のチェックや牛の健康状態の管理なども行うがそんな仕事は微々たる物だ。淘汰した牛もいないし、他に仕事が出来るから設備投資も特に負担ではなかった。搾乳ロボットを導入して本当に良かった。」と言っている姿が大変印象的で、こういう経営スタイルもあるのだなと驚かされた。ロボットを導入して5年経つそうだが、それまで機械トラブルも皆無だったらしく、乳量も特に減ることもなかったという。それどころか、平均搾乳回数が増えたせいか乳房炎の発生頻度も減り乳質も良くなったらしい。すべての農家でこのようにうまくいくとは限らないが、ロボット導入により生まれた時間の有効活用法という点においてこの牧場は参考になった。

 オランダで実際に搾乳ロボットの使用状況を見るまで僕の中で搾乳ロボットというのは、楽をするために多額の設備投資で導入するものというイメージでしかなかった。しかし、実際には飼養頭数を増やすためや上述したように兼業農家として働くためなど新たな事業展開の補助としてロボットを導入しているところが多かった。日本でもこれを参考にし、自分の牧場で乳製品を製造するためのロボット導入など新事業展開のためのロボットとして搾乳ロボットを捉えていければいいなと思った。

・バイオガスプラント(湿式)
 オランダの育種会社の1つであるAlta Geneticsの展示会兼研究牧場の公開日を見学に行った際、大規模のバイオガスプラント(300立方メートルの発酵槽×2)を見ることが出来た。そこでは泌乳牛250頭、育成牛150頭の排泄する糞尿と自作しているデントコーンの混合発酵でバイオガスを発生させそれをモーターに接続することで電力の生産を行っていた。また、脱離物も固形物と水分とに分け、固形物は堆肥、水分は液肥として再利用していた。
 
 ただ、僕が訪問したのは8月で気温も高かったためモーターの周辺に設置された冷却機が稼働していてそれがすごく無駄が多いように思えた。農場主の話によると獲得している170〜180kWの電力のうち、それらの冷却のため50kWほどが使われ実質120kWほどしか得られていないという。しかも、その冷却課程で生まれる温水の利用が冬以外うまく行われていなかった。電気とともに発生する熱の利用がオランダにおいても日本においてもバイオガスプラント普及の上で必要不可欠である。そして、そのために都市部と連携し暖房システムを確立すること、つまりインフラストラクチュアの整備が今後の大きな課題であると思う。

 さらに大きな課題として挙げられるのは売電価格と設備投資だ。事実、僕のホストもこの売電価格と設備投資に頭を悩ませていた。ホストの農場でも5000立方メートルの発酵槽を作る計画をたてていたらしいが売電価格にかかる政府補助金の展望がないこと、設備投資に少なく見積もっても100万ユーロはかかることを理由に諦めたという。もし、政府の補助金が現水準で継続して出され続けたとしても設備投資額の元を取るのに10年はかかる計算だったらしい。今現在オランダでは環境税による財源から政府の補助金が通常の売電価格に上乗せされ利益を得ることが出来ているがそれらが継続する保証はない。しかも、小規模プラントではガス発生量が少なく設備投資に対する利益の還元率が悪いのでどうしても大規模なプラントが必要になってしまう。万が一、国の援助がなくなると農家には設備投資のための借金のみが残ってしまうだろう。これらの解決策として発生ガス量の増加を考えていかなければならない。
 
 バイオガスの発酵基質は家畜(特に牛)の糞尿が大部分を占めるが、家畜糞尿のバイオガス発生効率はよくない。最も発生効率が良いのは油脂であり牛、豚糞尿の5〜8倍、デントコーンの3〜4倍量のバイオガスを得ることが出来る。つまり、これからバイオガス事業で利益を得るためにはデントコーンよりもはるかにガス発生効率の良い生ゴミや飲食店から出る残渣との混合発酵を行うことが必須条件だと言えるのではないか。そして、これはオランダ同様日本における課題でもありそのための酪農業と飲食業との連携を視野に入れるべきだと感じた。

5.

オランダの酪農から日本の酪農が学ぶこと

 オランダの酪農は日本に比べ機械化が進んでいる。そのおかげか経営規模も全体的に大きかった。日本の畜産農家も今後オランダのように経営規模の拡大が進むだろう。その中で日本の農業者支援制度の充実というのは不可欠になってくると思う。特にヘルパー事業とコントラクター事業に関してはオランダの事例を参考に改良していくべきだと思う。また、農業教育ももっと国を挙げてなされていくべきである。

 技術面で言えば、やはり搾乳ロボットの普及が日本でもなされるとよいと思う。ただ、導入に際し必要なコストも大きいので、ロボット導入によって出来た時間を有効活用できるように考えることが重要だ。次にバイオガスプラントに関してだが、これは飲食業との連携が不可欠であるといえる。しかも、搾乳ロボットと違って導入するためには大規模農場でなければいけない。とにかく現時点ではリスクが大きすぎると思う。これらのもの以外にも新たな酪農新技術が生まれてくるだろうが、それらを利用者である農家に対し普及する場というものが必要である。

 環境保全に関しても日本がオランダ及び他のEU諸国に学ぶことは多いと感じた。オランダでのミネラル収支制度は、残念ながらもう実施されてはいなかったが、窒素・リン酸のインプット量とアウトプット量を数値化するという考え方は日本でも行われるべきだと思う。日本全体としては、また、EU全体で行われている家畜単位による飼養頭数の制限というのも飼養頭数増加が予想される中、実施されるべき制度である。日本の場合、オランダほど地下水・土壌汚染は深刻な問題ではないが、それでも地域によっては処理能力を超えた負荷がかかっているはずでそれらを規制するというのは持続可能な酪農を行うためにも必要なはずである。

 最後に今後の日本での飼養形態についてだが、オランダで濃厚飼料多給の飼養を中心とした牧場で働いてみて、やはりこれから重要視されるべきは放牧だというのを実感した。オランダでは飼料価格の高騰と共に乳製品の価格も上昇していたので購入飼料の給与もそこまで問題ではなかったが、日本の場合は業者による乳製品の購入価格はあまり上昇しておらず自給飼料での飼養が至上命題である。

 さらに自給飼料の中でも放牧草はいろいろな面で優れていると思う。確かに栄養管理は難しいが、収穫も保存も行わなくてよいというのは大変魅力的だ。また、放牧は舎飼いに比べて牛にかかるストレスも少ないはずで、蹄病などのトラブルも回避できるだろう。本州の場合、畑に利用出来る土地をはじめ採草に利用出来る土地が限られているため山間での放牧というのも視野に入れなければいけないが、自給飼料での飼養を中心にするための有効な手段であることは間違いない。北海道の場合は採草によるサイレージの給餌というのも可能だが、やはり設備や労働力を考慮すると放牧の方が望ましいと感じた。

6.

研修生ならではの経験

 僕は、労働者としてではなくあくまで研修生としてオランダで働いていたので、労働以外にも出来るだけ多くの体験をしようと心がけた。また、自分のホストもその考え方に理解を示してくれ、仕事が忙しくない時以外はこちらの意思を尊重してくれた。
 
 なかでも印象的だったのは、他の研修生との交流だ。オランダには日本以外からも様々な国からの研修生が滞在しており、あちらでの対応者に連絡すれば彼らのファームステイ先の住所や電話番号などを教えてくれた。そこで、僕はそれらの情報を元に彼らに連絡を取り、自分の滞在している以外の農家も訪問した。これにより、それまで日本では体験したことのない規模の異文化交流というものが出来た。正直、研修が始まる前は英語力にもほとんど自信がなかったが、そうやって積極的に交流を行うことで自然と英語力も身に付いていった。 

 また、ホストに頼んでホストの知り合いの酪農家を見学することも出来た。特に近所の農家は頻繁に見学に訪れた。自分の滞在していたのはFrysland地方という田舎だったので、その分近隣の農家との繋がりも深かったように思う。(親戚が近隣で就農しているケースも多かった。)隔月ぐらいの間隔で、成績の良い農家や新しい設備を導入した農家が公開日を設けたり、と経営状況の向上にも積極的であった。この他にも、バカンスや週末を利用してオランダ以外の国に旅行したり、お祭りに参加したりと色々な体験が出来た。

 これらの経験は、もちろんホストの理解があってのことだったが、やはり研修生という立場によるものが大きかったように思う。任される仕事内容が限られてしまう等のデメリットも多少はあったが、それらを超えた、研修生ならではの貴重な経験が出来たことは大きな意味を持つと思う。
 
 これから、この研修プログラムに参加しようと思っている人も、仕事だけに限らず、研修中にやりたい事や研修に行く目的を自分の中で明確にし、それらを整理した上で行ってもらいたいです。そうする事で、多少疲れることがあったとしても気持ちが途切れることなく、充実した研修生活が送れると思うので。

7.

最後に

 僕は1年間という比較的長い期間でこの研修を行って良かったと感じている。出発前は、「1年は少し長すぎるかな・・」などと考えたこともあったが、今考えてみれば農家の生活を1年という1つの大きなスパンで体験する機会など滅多にないことで、それを体験できたことはある種の自信にも繋がると思う。

 また、僕自身初めての海外生活ということで、食文化の違いや言語の壁など戸惑うことも色々とあった。しかし、だからこそ得るものも多かった。オランダ酪農から日本の酪農に活かせることを見つけようと意気込んで研修を行ったが、それを考える以前に必要である農業や酪農業に関する知識の少なさに気付くきっかけにもなった。幸いなことに、僕にはまだ学生生活が残っている。これまでは、大学で学んでいることが実社会に本当に活かせるのか?などと知識もないくせに理屈ばかり考えていて、学ぶ姿勢というものを忘れていた気がする。だから、とりあえず今は学業にもっと力を入れ、この1年間の経験が活かせるよう心掛けなければならない。
 
 この研修を通じて、本当に多くの貴重な体験をすることが出来た。ただ、それらの経験が今後プラスになるかどうかはこれからの自分の姿勢次第だと思う。だから、オランダで過ごした1年間でのすべての出来事がこれからの自分にとってプラスになるようにこれからも頑張ろうと思う。



オランダ農業研修報告書

関根 崇敬

1. 派遣期間
2006.3.30〜2007.3.21

2.

配属農場について
・農場の概要・特徴
繁殖農家(ブリーダー)。雄の繁殖も行っている。 
経産60頭。小さい家族経営の牧場。
初産:2産:3産=30:20:10と、更新が早い。オランダの酪農会社と提携して、いい種を選んでいる。

・農場主の経営に対する考え方・取り組み方
市場での評価の高い(能力の高い)牛をつくる。 
快適な環境を牛に提供する。
成績の悪い経産は、胚芽摘出の際の代理腹として使う。
機械化を積極的にしており、省力している。 
自分で故障部位を直す。

・ライフスタイル 
毎日寝坊。 
食事は質素。 
外出はしない。
バカンスをとらない。


3.

研修内容
搾乳時、出産時はホストのサポートにまわる。 
掃除、給餌、そのほかのことは全て一人でやる。
牧草の刈り入れ、乾燥作業もする。 
庭掃除、芝刈りもやる。 
ゲストハウス作りの手伝い。

4.

研修成果
牛の行動から、自分がどう行動すべきかがわかるようになった。 
放牧酪農の1年の流れがわかった。
機械による給餌や運搬などの作業もスムーズにできるようになった。 
牛、餌などの酪農における良し悪しの判断ができるようになった。 
(いい牛、いい牧草を見分けられる) 
牛の健康管理で注意してみるポイント(蹄、乳頭など)がわかった。 
酪農地域を取り巻く環境の充実を知った。
日本とオランダ(ヨーロッパ)の違い。
オランダの環境への取り組みがわかった。

5.

これからの研修生へのアドバイス
 僕のホストが特別だったのか、僕のホストはイモ以外を食べようとしなかった。
僕が日本料理を作ろうとしたら、食べないといわれた。 
 交流協会の担当者が持ってきた日本のお菓子も、手をつけないまま結局しけてしまった。お土産として食べ物はあまりよくないのかもしれない。

 オランダ語ができたほうがよかったかなと思うことが度々あった。
オランダ人がみんな英語をできるというわけではなく、地元の人とコミュニケーションをとることが難しかった。


6.

その他
 この1年が楽しかったことは間違いないのですが、これが有益であったかどうかというのは、もっと先になってみないとわからないと思います。 
 ただ、日本でよいと思われていることが、オランダでは違っていたり、色々な違いを実感できる機会であったので、それを良い方向に育てて生きたいと思います。

 抽象的にしか知りえなかった「牛」を身近に感じられるようになり、個々の違いを認識できるようになりました。
 それは今後「牛」を研究対象にした場合に、大きな意味を持つかもしれません。

オランダは小さい国ではありますが、大陸の中のいることにより、いろいろな情報を多方面から吸収できる優位性をもった国だと思いました。

例えば、牛の頭数もさることながら、ドイツ、イギリス、フランス、スイス、アメリカなどから優秀な種を得やすく、日本の何倍のスピードで改良が進んでいることがわかりました。

日本の酪農界、農業界はこれからさまざまな局面を迎えると思いますが、こうしたオランダの見習える分は吸収していこうと考えています。


7.

オランダ酪農の特徴
1.コントラクターの導入
 私がまず、オランダ酪農の魅力に惹かれた点が、サイレージや乾草を作る際にコントラクターと呼ばれる請負業者に委託する仕組みが確立していることです。

 コントラクターの導入によって、業者は扱う機械を大型にすることができ、作業の効率化を進めることができます。ここで酪農家の支出は増えるように思えますが、年に数度しか使わない機械を買う必要がなくなり、そしてなにより牛を見る時間が増えるというメリットが生まれます。大規模化が進む北海道には欠かせない考えだと思います。

 コントラクターの仕事を詳しく述べると、春は牧草地の更新のための播種から始まり、コーン農地の耕起と播種。夏、秋はサイレージ・乾草の作成、堆肥の散布。冬は放牧地や草地の改良。といったように一年を通して何かしら仕事があります。

 私が行った年は、天候不順で牧草が育たなかったため、コントラクターの仕事が減り、彼らは牛の毛刈りをするなどして仕事を作っていました。北海道に当てはめるなら、春夏秋は同じでも冬は除雪をするなど、北海道の地域性を持った仕事を産出できると思います。

 次に、誰がこのコントラクターの働き手となるかを考えたいと思います。オランダの場合、代々コントラクターをやってきた家があり、そこに酪農家や養豚農家の息子たちが働きに来ていました。まだ親が十分に働けるから、重機の操作を覚えるためといった理由で働いていました。北海道でも町にある自動車工などを中心に、まだ就農する前の担い手の方々が働けば仕事をまわしていけるのではないかと考えます。

2.獣医、受精師、削蹄師の充実
 次に惹かれた点がこれです。私が日本で研修していたとき、牛の検診、受精は獣医さんが、削蹄は酪農家さんがといったような感じで行われていました。私がいたオランダの田舎でも、それぞれにプロが存在して、各々がプライドを持って活動をしていました。

 特に受精師は、ET(胚移植)の資格も必要らしく、改良が盛んなオランダならではのことなのかと感じました。また日本でも年に2回の削蹄が推奨されていますが、削蹄師の数がまだまだ足りず、実践には至っていないようです。

 オランダでは、日本で言うヘルパーの方々が削蹄の免許をもっていて、放牧期の開始時と終了時に行っているようでした。
こうした人材の配備は、酪農家の負担を減らすだけではなく、牛たちの環境水準を上げるものだと思います。

3.環境に対する配慮
 オランダは非常に環境に対する規制が多くある国だと思いました。
まず、糞尿などが自然に還元できる範囲内の頭数しか飼うことができない。糞尿なども環境に負荷のかかるものとして税金がかかるといっていました。
また、肥料を撒く量も制限があり、一定量しか購入できないそうです。

 そして、バンカーサイロやラッピングサイロのビニルや、肥料の袋などは自分の家で焼くことはできず、年に1回の回収まで保管しなければならないそうです。
日本はまだまだ環境に対する配慮は遅れていますが、もしオランダのように土地に対する牛の頭数といった規制がかかると、農地の少ない日本の酪農は成り立たなくなってしまうかもしれません。

4.生産調整
 今日本でも生産調整として牛をつぶすなどの事態になってきています。オランダも例外でなく、生産過剰に陥ったことがありました。そこで、クォータと呼ばれる生産調整法をとっていました。

 それは年間でオランダが生産できる乳量を一定にするというもので、各酪農家が生産できる乳量も一定に定められているというものです。もし、乳量を増やしたければ他の農家からその権利を買うなどして得なければなりません。

 もし、クォータの生産量を超えてしまった場合、罰金がかせられるようです。乳価が安くなる1〜3月は生産調整期で、多くとりすぎた牛乳を牛に飲ませたり、堆肥場に捨てていました。とてももったいない感じがしました。

 しかし単純に牛の頭数を減らしても、乳量は減らないわけで、生産調整を行う上でクォータという方法は一番有効なのではないかと考えます。

5.最後に
 今まで、私がオランダ酪農に惹かれた取り組みについて語ってきましたが、オランダ酪農の全てがいいものだとは感じていません。

 改良がすすみ、よりよい牛が産まれた反面、代謝病に悩む牛の数は増えており、薬物なしには上手く生活できない牛も少なくありませんでした。蹄病、乳熱、乳房炎といったものは、人間がよりよい牛を得ようとして、牛たちに負担を与えてきた結果だと思います。

 こうした状況が果たしてよいものなのか、これからいろいろ考えていかねばならないと思います。



<オランダのトマト温室栽培農家に滞在して>

久世 継義

1.
きっかけは大学に掲示された研修生募集の張り紙である。大学で農業政策や歴史について学んでいた私は、小国でありながら強力な農業を持つオランダに漠然とした興味を抱いていた。また卒業後新規就農を目指すという道も考えていたため、オランダで世界最先端の温室農業を学んでおくことは将来きっと役に立つだろうという観測もあった。

通常であれば農業生産額は土地の面積に大きく影響される。ところがオランダは九州ほどの面積でありながら農業輸出額でアメリカに次いで世界第二位である。フランスやブラジル、オーストラリアといったような農業国を凌いでいるのである。

日本の国土面積は比較的広いが、耕地面積は諸外国に比してそれほど多いわけではない。そして日本の農業は土地や労賃といった経費の高さから安価な外国産農産物に押され、さらにWTO交渉で市場開放圧力を受けて苦境に立たされている。日本と同じように耕地面積が少なく物価の高い国でかつEU内外で激しい競争にさらされながらもなお強力な農業を維持しているオランダに日本の農業の活路を見出せるのではないかと考えた。

2.

オランダの温室農業
オランダの温室農業は環境に配慮した農業として世界的に有名である。オランダで温室栽培・養液栽培であることを理由にスペイン産の露地栽培トマトを選ぶ人がいると農場主夫妻は消費者の無理解を嘆いていた。温室での養液栽培は確かに100%化学肥料栽培であり、「人工的」だという負のイメージが付きまとう。しかしガラスで上部を覆い地面にはマルチをかけることで外界から受ける影響を最小に抑えて、内部環境を理想的な状態にコントロールすることで病気の発生を抑え害虫の侵入を防ぐシステムは実に合理的である。結果的に露地栽培に比べ農薬を削減できる。また高緯度で夏場の日照時間が長く、夏場でも冷涼で乾燥した気候は温室農業に理想的な気候条件である。

温室水耕栽培では気温や湿度、二酸化炭素濃度、潅水量、養液の濃度、日照など人が操作できる要素が非常に多い。限りなく工業的に進化した農業だといえるかもしれない。 また見逃せない利点として連作障害がないことと植物の密度をかなり上げられることがある。毎年同じ作物を同じリズムで栽培できるのでより安定して生産できる。また栽培技術の向上にも好条件なのではないかと感じた。そして非常に高密度で植物を植え高濃度の養液で栽培するので単位面積当たりの収穫量が非常に多い。

3.

研修の概要
 研修期間は2005年3月から2006年3月までである。収穫期間中は、出荷用の箱を組み立てる機械の操作を中心に、調製出荷作業を担当していた。その他の期間は温室の改装や修繕などの作業を主に担当していた。
 生活に関しては、農場主所有の宿泊施設にポーランド人従業員と共に住んでいた。夕食は農場主家族と共にした。農場主夫妻には0歳・3歳・6歳の娘さんがいたので夕食の時間は賑やかで、またオランダ流の子育てを見られる興味深い時間であった。
 休日は話し合いによって、毎週土曜日と日曜日に加えて、収穫期間中は水曜の午後も休みにしてもらっていた。水曜の午後の休みは研修生として、農場の中を自由に見て回る時間である。週末には持参していた自転車でオランダやベルギーをサイクリングしたり、ブラジルやロシアや日本など各国から来た仲間の研修生と、お互いの農場を訪ねたり、観光に出掛けたりしていた。

4.

研修農場について
 農場主は現在35歳。中学校を卒業後15歳からウエストランド州にあった父の農場で働き始めた。10年前に25歳でその農場(2ヘクタール)を父から買い取って独立。4年前に6ヘクタールの温室を現在の場所に建てた。昨年2005年には隣接する土地を買い、12ヘクタールに温室を拡張した。

 温室はフェンロー型温室で幅220m、長さ620m、高さ5.5m(昨年建設された新しい温室は6m)である。新しい温室で屋根が高くなっているのは将来の照明設備の導入に対応させるためである。両端に隣接して選果場、ボイラー室、倉庫、休憩室や事務所のある建物がある。一方の選果場ではバラ取りトマト、もう一方の選果場では房取りトマトを選果・調製する。屋外には約1haの貯水池が2基、地下水をくみ上げて溜めておくタンクが5基、ボイラー室で沸かした温水を溜めておく温水タンクが2基ある。

 特筆すべきは昨年新設されたボイラー室で加温用の温水を作るとともに発電もする。いわゆるcogeneration sysytem(熱併給発電)である。ボイラーの発電能力は3500kwが一基、2500kwが2基である。これらによって1万6千軒分の電気がまかなえる。排気ガスは有害成分を取り除いてから二酸化炭素肥料として温室に還元される。

5.

昆虫の利用について
まず昆虫の利用について。温室で使われる昆虫は2種類に大別できる。一つ目は花を受粉させるための昆虫でマルハナバチが広く利用されている。二つ目は害虫を駆除するための天敵昆虫である。
どちらもバイオベスト社の製品が使われていた。毎週水曜日に同社のアドバイザーが農場を訪れてくる。彼女は担当者とともに植物を調べてまわり適切なマルハナバチの量や天敵昆虫あるいは農薬の使用などについて助言を与える。
天敵昆虫による防除はゆっくりとその効果が現れるので緊急の場合には農薬を用いる。ただしその場合でも可能な限り有機認証されている生物系の農薬を使用するようにしている。

6.

結び
オランダの施設園芸に対して、その設備の高度さや見た目の整然とした様子を見て工場の様だとよく言われる。まず労働者の管理に関してはまさしく製造業の工場のようであった。しかし、トマトの植物の管理に関してはいくら設備が高度になっても、養液栽培であっても基本的に農業であると痛感した。まず、トマトの生長は気象によって非常に影響される。たとえば気温は管理できても日照はいかんともしがたい。人工照明で冬の期間トマトを栽培しても成長は遅いし味が乗らない。日が長くなり暑くなれば一気に生長してたくさん熟れる。またあまり暑すぎたり生長の速度を速めすぎると疲れが出て、病虫害が発生したり軟弱果が多発したりした。植物の様子を日々観察して溶液の肥料濃度を調節したり、専門家に病害虫の管理のアドバイスをもらったり、温室の環境をチェックしたり、管理者は気が休まることがなさそうだった。そうしたいろいろな作業はまさに農業なのである。ただ自然任せの部分をなるべく減らして工業的にすべてを管理しようとする点に特徴がある。

一年の研修を終えて水耕栽培で自然じゃないから美味しくないとか安全ではないとかという考えに対しては、むしろ温室で水耕栽培するほうが有利な場面も多いと感じるに至った。不安定な要因を排除して理想的な環境を整えて、できるだけ安定した高レベルの生産を実現する農業。大きな方向性としてはすばらしいと思う。ただ、そうやって人ができる限りの要素を管理しようとすることで、人にとってはとても負担の大きい農業だとも思った。

経営者がどう考えようと経営の効率化は至上命題である。他国産地との激しい国際競争に加え、近年は巨大なスーパーチェーンの力で市場価格が不当に安い状態が続いているといわれかつてないほど厳しい状況にある。それでも急速な弱い経営の淘汰と規模拡大を伴って、オランダの施設園芸はまだまだ強い。

オランダの温室農業が強い競争力を持つ背景には、高度な生産設備や技術があるだけでなく分業化が進んでいることも挙げられる。新しい温室の建設にはコンサルタント、銀行、栽培装置などそれぞれの専門分野に特化した企業が連帯して建設にあたっている。コストの削減に関してはたとえば、作物が違っても設備はほとんど共通である。毎年の作業に関しても、温室の窓を洗う専門の業者、古い植物など廃棄物の処理業者、アドバイザーといった具合に実にさまざまな業種がある。これらの業者が自分たちの専門の作業を受託して比較的狭い範囲に集められた温室地帯を回るのである。

他の国がオランダの栽培システムだけを真似してもなかなかうまく行かない理由にこうした社会的背景があるはずだ。そうすることで一つ一つの作業の効率を高め、物価水準の高い国でありながら高い国際競争力を備えている。

 数週間から3ヶ月ほどで入れ替わるポーランド人労働者とは、年が近く生活をともにしていたこともあり、一番思い出深い人たちである。休みもとらず、日々の重労働に負けないポーランド人従業員は、農場の運営に不可欠の存在である。それまでは外国人出稼ぎ労働者といえば、安価な労働力という思い込みがあった。しかしながらオランダでは、国籍による賃金の差からではなく、働きぶりを評価して外国人従業員を入れているということを知った。

この農業研修のプログラムにはいろんな国の人が参加している。温室の花や野菜、酪農、畑作、有機といった具合に業種はさまざま。来る時期も帰る時期も期間も人それぞれで、研修先もオランダ中に散らばっていて普段はなかなか他の研修生と知り合う機会がない。

そんな中で夏に4泊のミーティングがあって、そこでいろんな人たちと知り合った。 その中でもブラジルから来ている研修生たちとは特に仲良くなって休日には一緒にいろんなところへ出かけている。
研修生の家でブラジル料理パーティーに参加。怪しい色のシチューは豚の耳と足とインゲンの煮込み。日本人が絶対に思いつけない組み合わせはさすが肉食の国だなと感心。魔女の鍋みたいだけれど味はとってもgood。そのほかにも牛の首の肉のローストとかめちゃくちゃにおいしい料理をご馳走してもらった。

ブラジルにはたくさんの日系移民の人たちが暮らしている。日系ブラジル人の社会的信頼はとても高い。研修生たちが尊敬をこめて「耕作には絶望的だった土地を日本人が開墾してブラジルで一番生産性の高い農地にしてしまったんだ」などと教えてくれる。恥ずかしいことに俺はそういう日本人の人たちがいたことすらほとんど知らなかった。
外国に来て初めて知る過去の日本人が残してくれた偉大な仕事。こんなに世界中で好感度の高い国はそうはない。そういう部分をもっと学校で教えれば良いのになと思う。

中間ミーティングは本当に良い思い出だった。田舎町に集まってホームステイをしながらいろいろ楽しむ。そのあと仲良くなった研修生たちと週末に出かける。自分は研修生の少ないエリアにいたのでこうやってたくさんの人と出会える機会があったのは本当にありがたかった。

仕事の最終日は午後からトマトの集荷場やその他の農場、選果場を見に連れていってもらい、レストランで美味しい食事をごちそうになった。

7.

終わりに
まず施設園芸に対して十分な経験もなく、フルタイムの労働者というのも初めてだったし、人間としても未熟であった。本当に新しいことばかりの大変な一年であった。1年間私を受け入れてくださった農場主一家には本当に感謝である。ありがとうございました。

身近には各国から集まった研修生たち。仕事の後に語らったり、週末に出かけたりしたことが大きな刺激になって元気をたくさんもらった。よい出会いに恵まれたと思う。彼らとはまた再会したいものである。
最後に大学に長居した挙句の今回の研修を認めてくれ、経済的にも精神的にも支えてくれた両親には本当に頭が上がらない。今回の研修をこれからの人生にしっかり生かしてゆくことで何とか親孝行しないといけないと思っている。ありがとうございました。


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